東欧のワインと聞いても、すぐには味が思い浮かばないかもしれません。ルーマニア、ブルガリア、モルドバは、古代からブドウを育ててきた歴史を持ち、ほかの地域にはない土着の品種を手ごろに楽しめる産地です。
このページでは、ルーマニア・ブルガリア・モルドバのワインの特徴と主な産地、ブドウ品種、代表的なワインと造り手、ラベルの見方、合う料理を、初心者向けにわかりやすく紹介します。
東欧のワインをひとことでいうと
・古代からブドウを育ててきた、黒海の周りの古いワイン産地です
・ルーマニアはフェテアスカ、ブルガリアはマヴルッド、モルドバは地下の巨大なワインセラーが見どころです
・土着の品種を、手ごろな価格で楽しめるものが多いのも魅力です
東欧はどんなワインの地域?
ルーマニア、ブルガリア、モルドバは、黒海の西側に並ぶ国々です。カルパチア山脈やドナウ川、黒海が気候を左右し、夏は暑く、冬は寒い大陸性の気候が中心です。
ブドウづくりの歴史は、ジョージアやギリシャと並んで古く、古代のトラキア人やギリシャ人の時代までさかのぼります。ワインの歴史の中でも、早くからワインが飲まれてきた地域のひとつです。
20世紀の社会主義の時代には、国の管理のもとで量を重視したワインが造られ、ソ連などへ大量に輸出されていました。体制が変わったあと、民間の造り手が増え、外国の資本や醸造家も加わって、質の高いワインが出てくるようになりました。ルーマニアとブルガリアは2007年にEUに加盟しています。
ルーマニア・ブルガリア・モルドバの違い
まずは3つの国の違いを表でまとめます。
| 国 | 特徴 | 代表的な品種 | 主な産地 |
|---|---|---|---|
| ルーマニア | ヨーロッパ有数のブドウ畑の広さ。土着の品種が豊富 | フェテアスカ・ネアグラ、フェテアスカ・アルバ | デアル・マーレ、コトナリ、トランシルヴァニア |
| ブルガリア | かつてのカベルネ・ソーヴィニヨンの輸出国。力強い赤 | マヴルッド、メルニック | トラキア低地、ストルマ渓谷 |
| モルドバ | 国の規模に対してブドウ畑が多い。地下のセラーが名物 | フェテアスカ、ララ・ネアグラ | コドル、シュテファン・ヴォダ、ヴァルル・ルイ・トライアン |
ルーマニア|土着の品種の宝庫
ルーマニアは、東欧でもっともブドウ畑の広い国です。カルパチア山脈が国の中央を弧を描いて走り、山の南と東、内陸の盆地で味わいが変わります。
- デアル・マーレ(Dealu Mare):カルパチア山脈の南の丘陵地。フェテアスカ・ネアグラやメルロなどの赤で知られる
- コトナリ(Cotnari):北東部の歴史ある産地。グラサ・デ・コトナリから甘口の白を造る
- トランシルヴァニア(Transilvania):標高の高い内陸の盆地。酸のきれいな白が中心
- ムルファトラル(Murfatlar):黒海に近い南東部の産地。日当たりがよく、熟した味わいのワインが多い
主役のフェテアスカ・ネアグラは、「黒い乙女」という意味の黒ブドウです。プラムのような果実味と、なめらかな渋みが特徴で、ふだんの食卓に合わせやすい赤です。
ブルガリア|ヨーグルトの国の力強い赤
ブルガリアといえばヨーグルトを思い浮かべる方が多いと思いますが、古代トラキア人の時代から続くワインの国でもあります。社会主義の時代には、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの手ごろな赤を大量に輸出し、イギリスなどでも親しまれました。
- トラキア低地(Thracian Lowlands):バルカン山脈の南。マヴルッドなど力強い赤の中心地
- ドナウ平原(Danubian Plain):北部の平原。ガムザなどの赤や白が造られる
- 黒海沿岸(Black Sea):東部の海沿い。白ワインが中心
- ストルマ渓谷(Struma Valley):南西部。ギリシャの近くで、メルニックの産地
近年はマヴルッドやメルニックといった土着の品種に力を入れる造り手が増えています。サンテミリオンのシャトーのオーナーが関わるベッサ・ヴァレーのように、外国の造り手が参加したワイナリーもあります。
モルドバ|地下に広がるワインの都
モルドバは、ルーマニアとウクライナにはさまれた小さな国です。国の大きさに対してブドウ畑がとても多く、ワインは国を支える産業のひとつです。毎年10月にはワインの祭りも開かれます。
名物は、石灰岩を掘った跡を利用した地下のセラーです。ミレシュティ・ミーチ(Mileștii Mici)には200kmを超えるといわれる地下の通路があり、世界最大のワインコレクションとしてギネス世界記録に認定されています。クリコヴァ(Cricova)の地下のセラーも有名で、中を車で移動するほどの広さです。
長いあいだロシアが最大の輸出先でしたが、2006年と2013年にロシアがモルドバワインの輸入を止めたことをきっかけに、ヨーロッパやアジアへの輸出に力を入れ、品質を高める動きが進みました。
東欧の主なブドウ品種
国際的な品種も多く育てられていますが、東欧ならではの楽しみは土着の品種です。
| 品種 | タイプ | 味わいの傾向 |
|---|---|---|
| フェテアスカ・ネアグラ(Fetească Neagră) | 赤 | ルーマニア・モルドバの代表。プラムの香りとなめらかな渋み |
| マヴルッド(Mavrud) | 赤 | ブルガリアの代表。色が濃く、渋みと酸がしっかり |
| メルニック(Melnik) | 赤 | ブルガリア南西部の品種。チェリーのような香りで、スパイスの風味も |
| ララ・ネアグラ(Rară Neagră) | 赤 | モルドバで親しまれる品種。軽やかで酸がある |
| フェテアスカ・アルバ(Fetească Albă) | 白 | 花の香りがあり、やわらかい酸の白 |
| グラサ・デ・コトナリ(Grasă de Cotnari) | 白 | ルーマニアの甘口に使われる品種。貴腐ブドウになることも |
東欧でよく見かける国際品種は、メルロ(ゴールデン・レトリバー)、カベルネ・ソーヴィニヨン(ライオン)、シャルドネ(ユニコーン)などです。動物に例えると、世界で活躍する人気者たちが、土着の品種と同じ土地で暮らしている地域といえます。少し重めの赤が好きな管理人としては、マヴルッドが気になるところです。
知っておきたい代表的なワインと造り手
東欧のワインを探すときは、次の名前を手がかりにしてみてください。
- ネグル・デ・プルカリ(Negru de Purcari):モルドバを代表する赤。カベルネ・ソーヴィニヨン、ジョージアで知られるサペラヴィ、ララ・ネアグラを合わせて造ります
- プルカリ(Purcari):モルドバ南東部の歴史あるワイナリーです
- クリコヴァ(Cricova):地下のセラーで知られるモルドバのワイナリーで、スパークリングも造っています
- クラメレ・レカシュ(Cramele Recaș):ルーマニア西部の大きな造り手。手ごろなワインを幅広く手がけています
- ダヴィーノ(Davino):ルーマニアのデアル・マーレの造り手です
- ベッサ・ヴァレー(Bessa Valley):ブルガリアのトラキア低地の造り手。エニーラ(Enira)の名前で知られています
東欧ワインのラベルの見方
ルーマニアとモルドバのラベルはルーマニア語です。ブルガリアはキリル文字ですが、輸出用には英語で書かれたものも多くあります。
| ラベルの表記 | 意味 | 選び方 |
|---|---|---|
| DOC(ルーマニア) | 原産地呼称のある品質ワイン | 産地の個性を楽しむ目安に |
| IG / IGP | 地理的表示のあるワイン | 日常に楽しむ1本の目安に |
| Sec / Demisec | 辛口/やや辛口(ルーマニア語) | 食事に合わせるなら Sec を |
| Demidulce / Dulce | やや甘口/甘口(ルーマニア語) | 甘いものと合わせたいときに |
| Roșu / Alb | 赤/白(ルーマニア語) | Fetească Neagră なら赤、Fetească Albă なら白 |
| Сухо | 辛口(ブルガリア語) | キリル文字で「スホ」と読む |
東欧ワインに合う料理
肉の煮込みや、チーズ、ヨーグルトを使う料理が多い地域です。日本の家庭料理にも合わせやすいワインがそろっています。
| 料理 | 合うワイン | 合う理由 |
|---|---|---|
| ロールキャベツ | フェテアスカ・ネアグラ | ルーマニアのサルマーレに近い料理。なめらかな渋みが煮汁になじむ |
| ビーフシチュー | マヴルッド | 濃いコクに、しっかりした渋みが釣り合う |
| ラムのグリル | メルニック | スパイスの風味が、ラムの香りと重なる |
| ソーセージ | ララ・ネアグラ | 軽やかな酸が、肉の脂を流してくれる |
| 白カビ・フレッシュチーズ | フェテアスカ・アルバ | やわらかい酸が、チーズの乳の風味に寄り添う |
| チーズケーキ | コトナリの甘口 | 甘さと酸が、濃厚なケーキを受け止める |
よくある質問
東欧ワインの特徴は何ですか?
古くからのブドウづくりの歴史と、土着の品種の多さです。フェテアスカ・ネアグラやマヴルッドなど、ほかの地域ではほとんど見かけない品種を楽しめます。
ルーマニアワインはおいしいですか?
近年は品質が大きく上がっています。まずは主役のフェテアスカ・ネアグラがおすすめです。やわらかい渋みの赤なので、初心者でも飲みやすいタイプです。
モルドバワインはどこの国のワインですか?
モルドバはルーマニアの東隣にある国で、旧ソ連から1991年に独立しました。ルーマニアと言葉や品種に共通するところが多くあります。ネグル・デ・プルカリが代表的なワインです。
ブルガリアワインの代表的な品種は?
赤のマヴルッドとメルニックです。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロも広く育てられていて、手ごろなものを見つけやすい国です。
初心者がはじめの1本を選ぶなら?
軽めがよければルーマニアのフェテアスカ・ネアグラを、重めの赤が好きならブルガリアのマヴルッドを試してみてください。同じ地域のハンガリーやクロアチアとも飲み比べると、違いがよくわかります。




